脾の生理≪脾・口・胃≫
西洋医学的には「脾臓」は造血機能や免疫機能を担う臓器とされており、胃の裏側に位置します。ただし、人体にとってそれほど大きな役割はないとされ、仮に取り除いてしまっても生存には影響がないともされています。
一方、中医学ではその働きは全く異なって定義されます。飲食物を消化吸収し、「気」を作り出す非常に大事な「臓」であり、そのバランスが崩れることにより様々な病気を引き起こしてしまいます。
「脾」は五行説でいえば「土」に当たります。「土」は「万物の母」とも言われ、このことも「脾」が重要な臓器であることを表しています。農作物を育てて栄養を蓄える土の性質は、脾が担う胃腸機能の役割を的確に代弁しています。
「脾」は消化器系統の事を指し、消化吸収や出血を起こさないように血管を守っています。中医学の「脾」の働きは、「胃」「膵臓」の機能を併せ持ったものと捉えてよいでしょう。脾のリンク先の一つに「手足」や「唇」があります。
まとめると「消化吸収、栄養物質の運搬、血管の強化」ということになります。
これらがうまく働かないと、下痢や腹痛、血便、血尿、皮下出血、全身倦怠、無気力などが起こりやすくなります。もう一方のリンク先である「胃」は食べたものを受け取り消化するという初歩的消化をしております。この機能がうまく働かないと胃痛、嘔吐、食欲不振、はぐきの腫れが現れたりします。
1.脾は『運化』を主る~消化・吸収~
「脾」の『運化を主る』とは、飲食物を消化吸収して全身に運搬する、という意味合いです。「脾」の機能が正常であれば、「気」「血」「津液」を生成して、身体の隅々まで栄養を行き渡らせることが出来るのです。逆にその失調は軟便や食欲不振、倦怠感などの症状を引き起こすことになります。
≪症状≫
●失調~食欲不振・食後の倦怠感や眠気・もたれ・軟便・下痢
2.脾は『血』を統す~血の漏出を防ぐ~
「脾」は『血の流出を防ぐ」、ということを意味します。「脾」が「血」を統血するというメカニズムは「気」の固摂作用に関係します。「固摂」とは漏れを防ぐ力であり、その作用を持つ「気」を作り出す主要な器官である「脾」が「血」の統率に重要な役割を担う事になるのです。
「脾不統血」という言葉があり、これは脾の力が衰えたことにより引き起こされる出血症状を指します。
≪症状≫
●失調~不正出血・鼻血・生理がダラダラ続く・皮下出血
3.脾は『昇提』を主る~臓腑・器官の位置を維持~
臓器や器官の固有の位置を維持する働きをもつ事を示しています。いわゆる上に上げる力がないと重力に逆らえず、各臓器は下方に落ちてしまいます。そうならないためには「昇提」の力が必要であり、足りない場合には内臓下垂などの症状を引き起こしてしまいます。
さらに、「水穀の精微」を肺にまで送る働きも意味します。
≪症状≫
●失調~胃腸の下垂感・脱肛・めまい・ふらつき
4.脾は『口』に開竅する~口・唇の機能維持
「脾」は口や唇と関係が深く、またその異常が表れる場所とされます。よって「脾」のバランスが崩れると、口に粘り気が出たり、周辺に炎症を起こすこととなります。
≪症状≫
・失調~味がない・口が粘る・唇の色が淡白・痰飲(舌苔)
総じて判断すると、『脾』は【気・血・水】全ての根源となる臓であり、特に【気】と大きく関わりがあり、「身体虚弱症状・胃腸症状」が『脾』に関係が深い、と捉えます。